vol62. 「使える弁証法」 を読んだ

使える弁証法を読んだ。
大好きな田坂広志先生の著書。

使える 弁証法

使える 弁証法

この本を読むきっかけは、野口先生による自己実現塾で課題図書として指定されたため。 購入後しばらく積読状態で、最近ようやく読み終えた

弁証法とは

恥ずかしながら、弁証法という名前については全く馴染みがなかった。

少し調べてみると、弁証法の伝統は古代ギリシアにまで遡るらしい。
現代では、ドイツ観念論の哲学者、ヘーゲルによる弁証法を意味することがほとんどとの こと。それは次のようなものだ。

物事は、正(テーゼ)、反(アンチテーゼ)、合(ジンテーゼ)を通して進化し、
より高次の段階に到達する。この進化をアウフヘーベンと呼ぶ。

正、反、合のいくつかの例を出してみよう。

  • 例: 花

    • 正: 花は美しい
    • 反: 必ず枯れる
    • 合: 枯れた花は実を残す
      花はいつか枯れるという否定のプロセスが、「実」として次世代に残される
  • 例:マザコン少年

    • 正: お母さん大好きなマザコン少年
    • 反: 僕とお母さんは恋人ではない
      • 成就を阻む父親、さらには母親本人のことを憎む
    • 合: 母親の否定を通じた先にあるアウフヘーベンに、少年の成長がある
  • 例:ビジネスの議論の場

    • 正: Aという問題や提案
    • 反: あえて矛盾や対立するBという問題や提案を提示
    • 合: そのどちらも超越するCという結論を目指す
  • 例:コップ

    • 正: コップを真横から見て長方形
    • 反: コップを真上から見て円形
    • 合: 実は、円筒形
      => 2次元平面のレベルでは対立していた意見も、上位の次元、3次元で見ることに よって解消された

否定を通じて新たな事物を生み出し、より高次の状態へと導かれることをアウフヘ ーベン、そのような考え方を弁証法というんだね。

本書のポイント

さて、そのような弁証法についてだけど、この本は弁証法の4つの法則と、それらの根底となる1 つの基本法則について、身近に見られる様々な例を用いて説明してくれている。

以下に備忘録として、そのポイントだけまとめておく。

  • 弁証法の法則
    • 4つの法則
      • 螺旋的発展の法則
        • 物事が発展するとき、直線的に発展するのではない螺旋的に発展する
      • 否定の否定による発展の法則
        • ある物事が否定される形で変化が起きるが、その変化の極点において、そ の否定そのものが否定され、新たな発展が生じる
      • 量から質への転化による発展の法則
        • 量が増大し、一定の水準を超えると、質の変化が起きる
      • 対立物の相互浸透による発展の法則
        • 対立し、闘争している二つの物は、互いの性質が相互に浸透していく
    • 基本法
      • 矛盾の止揚による発展の法則
        • 4つの法則の根底に存在する、最も基本となる法則
        • 矛盾とは、物事の発展の原動力
          • 矛盾のマネージメント
            • 割り切らない
            • 弁証法的な使用をする
            • 振り子を振ること

東洋文明と西洋文明のアウフヘーベン

この本は、僕の心に最も響くメッセージを最後に残してくれた。
それは、

未来には、東洋文明と西洋文明の止揚が起きる

ということ。

どういうことか?要諦となる文章を抜き出すと、

人類の文明は、5000年前、東洋で生まれた。
エジプト、メソポタミア、インダス、そして中国の4大文明。
しかし、文明の中心は、東洋から西洋へと移る。

科学技術を飛躍的に発展させたのは、欧州を中心とする西洋。
資本主義も英国の株式会社や産業革命が起源。
やはり、西洋で生まれ、発展してきました。

この文明の中心はさらに西方に移り、米国へ。
米国発の科学技術や資本主義が、世界全体に大きな影響を与えながら発展を続けている。
さらに、不思議なことに、米国でも、かつて東海岸にあった学問や経済の中心は西海岸へ。

そして今、何かへの回帰が起きている。

インターネット革命によって、世界中の様々な個人が、国家や民族や人種を超え、組織 や地位や立場を超え、性別や年齢や信条を超え、自由に、平等に、自発的に結びつき、 コミュニティを作り、ボランティアで働き、ネットワークを広げている。

西洋文明は長く規律、階層、管理に基づく機械的世界観にもとづいて文明を築いてきた。
それが今、自由、平等、双発にもとづく生命的世界観へと進化していこうとしている。

螺旋的発展が起きている

西洋文明が開花させた最先端の科学技術と資本主義
東洋文明の根本にあった生命的世界観と深い精神性

その二つが結びつき、融合し、21世紀の新たな文明を生み出そうとしている。

東洋文明から、西洋文明へ。そして再び東洋文明へ。
米国の西海岸から、さらに西へ望むと、何があるか。

雄大な太平洋の彼方に、日本という国が、ある
世界で最も進んだ科学技術を開花させ、
世界の最先端の資本主義を開花させた国。
その土壌の下には、数千年の歴史を持つ、東洋思想の伝統が流れる国。

そして最後にこう締めくくる。

21世紀における、日本の歴史的使命は、何か。

文明は東洋で生まれ、西洋で発展し、米国でさらに発展し、周りまわって今、 東洋の世界観、精神性を取り込む形で、更に進化しようとしている。
そして、そこには日本がいる。

この、日本の使命のくだりを読んで、とても嬉しく、かつ身の引き締まる思いを感じた。
アメリカに住んでいると、本当に日本の良いところがよく見えてくる。
西洋と東洋が見事に融合した日本。この素晴らしさを胸に抱えて、世界に挑みたい。

感想

さて、本書を読み終えて、なぜこれが自己実現塾の課題図書だったのかと考え直して見た。

野口先生は何を伝えたかったんだろう。

そして自分が出した解釈は、

先生は、「人間としての成長も同じだよ」 と言いたいのでは?

と感じた。

そして、メールレターを読み返してみると、

  • 僕たちの心の中には、まだ自分でも気づいていない未知なる自分が存在します。
    その未知なる自分を発見し、それをこれまでの自分に統合していくことによって、
    真の自分らしさが醸成され、人格的な成熟が進みます。
  • 自分の中の矛盾する要素を統合していくことで、
    人は、より厚み・深み・大きさのある人間へと成熟していく、

おお。まさに、それを意味するメッセージが!!

自分の過去を振り返ると、こうして、自分の考えを整理して、自分を見つめて生きるとい うことをやってこなかった。読書をして、それをアウトプットするという習慣も持って なかった。日記をつける習慣もなかった。朝、少しずつ、自分の夢を追いかけるための時 間を持つこともなかった

でも、今はそれらの大切さに気づいている。
毎日少しずつ、歩みを進めることのできている自分がいる
takeでなく、give をしたいと思っている自分がいる

そしてそう思えるようになった過程は、今振り返ると、螺旋階段的な成長の仕方だったなぁ。
まさに、弁証法的なプロセスだ。